船舶型原子力発電所..
ロシアが20年近くかけて建造してきた海上浮揚式原子力発電所(船舶型原発)「アカデミック・ロモノソフ」が7月、極東の最終目的地ペベクへ向けて出航する。
ロモノソフは全長144メートル。曳航(えいこう)されてムルマンスクを出港し、北極海航路をたどってモスクワから約6400キロ離れた北極圏の港町ペベクを目指す。海上に停泊してチュクチ自治区の入植地や、炭化水素や宝石を採掘する企業に電力を供給する計画。
ペベクのようなロシア北極圏の町や村には約200万人が居住する。中には飛行機や船でしか近づけない場所もある。しかしこうした地域はロシアのGDPの最大20%を担っており、シベリアの資源埋蔵量が減少する中で、北極圏の豊富な石油やガス採掘を目指すロシアの計画の鍵を握る。
しかし原発を北極海に浮かべる計画は、環境保護団体などの批判の的になり、グリーンピースはロモノソフのことを、1986年に壊滅的な事故を起こしたチェルノブイリ原発にちなんで「氷上のチェルノブイリ」「海に浮かぶチェルノブイリ」と形容した。
ロシアの原子力プロジェクトを担う国営企業のロサトムは、そうした批判は筋違いだと反論してきた。ロモノソフの環境保護対策責任者は、チェルノブイリ原発とロモノソフとでは、原子炉が稼働する仕組みが異なると説明。「もちろんチェルノブイリのような事態は決して繰り返してはならない。(ロモノソフは)北極海の海上に停泊して常に冷却される。冷却水が欠如することはない」と強調する。
海上の原子力発電は、米軍も1960年代、パナマ運河に浮かべた船上に小規模な原子力発電施設を装備して、ほぼ10年間運用を続けた。民間では米エネルギー会社のPSE&Gがニュージャージー州沖の海上に発電所を浮かべる計画を打ち出したが、住民らの反対や環境への影響を懸念する声が高まり、1970年代にプロジェクトは中断に追い込まれた。
ロシアでもチェルノブイリ原発の惨事を受けて原子力業界に対する不安が高まり、原発の建設計画が相次いでストップしていた。
チェルノブイリの爆発による直接的な死者は31人前後にとどまる。だが数百万人が危険な濃度の放射線にさらされた。
長期的な被爆による死者の数を巡っては見解に食い違いがある。国連は2005年の時点で、関連のがんによる死者を最大で9000人とする推計を明らかにした。これに対してグリーンピースは、チェルノブイリ事故に関係する健康問題も含めると、死者は最大で20万人に上ると推定している。
以後、ロシアの原発で重大な事故は起きていない。ロサトムでは信頼性と安全性を強調し、原子炉の現代化や高度化を進めてきたと説明する。
しかし、2011年に東京電力福島第1原発の事故が発生した。水浸しになった原子炉の写真は今も記憶に焼き付いている。ロシアの船舶型原発については、核燃料の定期的な廃棄や、巨大な波に襲われた場合の対応などを巡って不安が付きまとう。
福島の教訓は学んだとプロジェクト担当者は主張、「たとえ巨大津波に襲われたとしても、係留が外れることはない。もしも陸上に乗り上げた場合でも、バックアップシステムによって24時間電力供給なしで原子炉の冷却を継続できる」と話す。
これに対し、原子力プロジェクトと環境への影響を調べている非政府組織(NGO)ベローナの専門家は、原子炉2基を搭載した施設が、もしも津波によって打ち上げられた場合、24時間で惨事を防ぐことはできないと指摘している。
(CNN ニュースサイトより)
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船舶型(浮体)原発の場合、陸上の原発に比べて以下のような特徴を有している。
◯長所
・地震に強い
・津波に強い
・落下物および軍事攻撃に強い
・全電源喪失でも海水の注水は容易
・船体が海水で冷やされているのでメルトスルーしにくい
・万一爆発しても水圧で爆発が減殺されセシウム散布半径が狭まる
・離島沖合いに設置した場合、万一爆発しても本土にセシウムはかからない
・移設が可能で、先進国に運搬してメンテナンスすることも可能
●短所
・船体建造費がかかる(一隻で1500億円程度の建造費/浜岡堤防は建設費1000億円)
・通勤が困難(無人・遠隔操縦化するか 離島に社宅学校整備してそこから通勤か)
・海中送電線は直流高圧送電でコストは下がったが建設費10億円/km程度は掛かる。
・海中への固定・位置保持が問題である。
・現状、存在するフランスのフレックスブルー(Flexblue、後述)計画は、原子力災害への対応を想定した設計というより、途上国への輸出や遠隔植民地の島嶼への設置を設計意図としているために、陸地との離隔、潜水深度が充分ではない。原子力災害を想定するなら陸地から数百km沖合いで、あんこう等の商業海産資源の生存域(水深500m)より深海設置でなくてはならない。
(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)